オペラを楽しもう

 テレビ朝日「題名のない音楽会」、3曲でわかるオペラ入門である。森麻季、西村悟、大西宇宙が出演した。現在、活躍中の歌手たちによるオペラの名アリアから、オペラを身近な存在として楽しんでもらう好企画である。
 オペラ界の貴公子と言われた錦織健が、オペラ入門として、ビゼー「カルメン」、プッチーニ「蝶々夫人」、團伊玖磨「夕鶴」を推奨したことを思い出す。今回は、プッチーニが日本を舞台にした「蝶々夫人」、中国を舞台にしたものの、未完に終わり、補作で完成となった「トゥーランドット」、ビゼー「カルメン」を取り上げた。
 森麻季の「ある晴れた日に」、かりそめの結婚で捨てられたことも知らず、ピンカートンを待ち続ける蝶々夫人の心情を見事に歌い上げた。NHKで放送した「好きやねん 蝶々夫人」で取り上げ時、蝶々さんの陰で、泣き崩れるスズキの姿を映し出していた。この時、小林ひさらが蝶々夫人、スズキを永井和子が演じた。ピンカートンが小林一男、アメリカ領事シャープレスを直野資が演じた。ピンカートン、シャープレスによる「ヤンキーは旅行く」でのやり取りを聴くと、現地妻の感覚での結婚に対し、「何と言うことを」というシャープレスの言葉が心に刺さる。女性を粗末にするピンカートンへの厳しい視点などが重要な役回りである。
 オペラでは、メゾ・ソプラノ、バリトンがドラマのキーロールとなる役が多い。「蝶々夫人」ではスズキ、シャープレス、「カルメン」では闘牛士、エスカミリオなど、重要な役を演ずる。オペラ上演評では、キーロールに人材がいるかどうかで、上演評を出すことが大切である。主役より重要な役に人材がいるかで決まる。
 ブッチーニのオペラでは、題材・台本を重要視している。オペラに駄作がなかったことは、台本作家を厳選したことにある。ジャコーザ、イッリカといった作者がプッチーニのオペラに相応しい台本を提供、今でも残る傑作オペラとなった。また、プッチーニがシェーンベルク「月に憑かれたピエロ」を高く評価していたこと、ドビュッシーの印象主義からの影響も取り入れたたことも肯ける。リヒャルト・シュトラウスは、シェーンベルクの才能を評価しても、12音音楽を否定した。
 19世紀後期から20世紀前期、イタリアでもヴァーグナーの影響が強まり、ブラームスをはじめとするドイツ音楽が受容されるようになり、ゲルマニズムが始まった。プッチーニもゲルマニズムの影響を受けた面がある。ゲルマニズム、印象主義の影響がプッチーニの音楽を魅力的、かつ親しみやすいものにしたと言ってもいいだろうか。
 未完に終わった「トゥーランドット」、「誰も寝てはならぬ」を西村悟が見事に歌った。ダッタン人の王子、カラフがトゥーランドットへの謎かけとしてぶつけた問い、トゥーランドットを射止めることができるだろうという希望に満ちていた。ゲルマニズム、印象主義を見事に結合、旋律を大切にしつつ、オペラ全体の質を最高に高めたプッチーニの集大成たるものを感じた。
 大西宇宙による「闘牛士の歌」、ホセがいることを意識しつつ、闘牛士の誇りを見事に歌った。ホセはカルメンゆえに密輸業者に仲間入り、ミカエラと共に山を下りたものの、カルメンを諦めきれず、殺してしまう。ヴァーグナー・ブラームスも「カルメン」を評価したほどである。イタリアでのヴェリズモ・オペラを予見する幕切れに、新しい要素を見て取ったことは当然だろう。
 アリアからオペラを楽しもうという好企画、見事である。やはり、30分では物足りない。1時間あった方がいいだろう。イタリア・オペラ、ドイツ・オペラ、フランス・オペラ、ロシア・オペラ中心の企画が立てやすい。もったいない気がする。
 3大テノール、ルチアーノ・パヴァロッティの言葉である。
「オペラは作り物だ。だが、舞台上では少しずつ真実になる。」
これほど、オペラの本質を突いた言葉はないだろう。オペラを楽しもう。

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