モーツァルト、ピアノソナタ、K.331、K.545(グリーグによる2台ピアノ版)、ハイドン、交響曲第94番「びっくり」第2楽章、ピアノ編曲版を聴く

 NHKラジオ「音楽の泉」が高校野球中継のため、放送が2週連続休止後の再開となった8月21日、エリーザベト・レオンスカヤによるモーツァルト、ピアノソナタ、K.331、ピョートル・アンデルシェフスキー、マルタ・アルゲリッチによるK.545(グリーグによる2台ピアノ版)を取り上げた。解説は奥田佳道。
 「音楽の泉」は、NHKラジオの音楽番組では最長寿番組で、初代、堀内敬三、2代、村田武雄、3代、皆川達夫、奥田佳道は4代目となる。この番組の解説者が日本を代表する音楽評論家、音楽学者たちが担当、親しみやすい解説で好評を得ている。皆川氏の後任には樋口隆一氏が良いのではないかという声もあった。第4代目に奥田氏となったことには、長く解説を続けていける人材が適任ではなかろうかという面があっただろう。奥田氏が解説を引き継いだ直後、皆川氏の訃報があった際、皆川氏の解説によるバッハ、コーヒー・カンタータの放送を取り上げ、皆川氏への追悼としたことは忘れられない。
 レオンスカヤの演奏は端正、かつ歌に満ちたモーツァルトで、第1楽章の変奏曲には各変奏の性格付けが豊かで、歌心充分だった。第2楽章、メヌエットは、ハンガリーで、このソナタの自筆譜が発見され、改訂版が出た。レオンスカヤの演奏は、従来の版に沿ったとはいえ、歌心たっぷりのモーツァルトの音楽に満ちていた。第3楽章、トルコ行進曲もトルコ風とはいえ、モーツァルトの歌が流れていた。レオンスカヤがモーツァルト、ソナタ全集を出しているため、改めて、この演奏のみならず、ソナタ全集を聴いてみたい。
 もっとも、レオンスカヤの場合、協奏曲のみで演奏を聴いているため、ソロ・リサイタルは聴いていない。ソロ・リサイタルがあるなら、ぜひ聴きたいピアニストである。
 アンデルシェフスキー、アルゲリッチによるK.545、グリーグによる2台ピアノ版は若手ピアニスト、アンデルシェフスキーがアルゲリッチの見事なバックアップに乗り、じっくり聴かせる演奏になっている。アルゲリッチと言えば、ソロ・リサイタルでは見事な名演を聴かせたとはいえ、協奏曲・室内楽中心のコンサートが中心となっている。音楽を通じて、人とのつながり・出会いから刺激を受け、新たな音楽への挑戦を続けている姿は素晴らしい。大分県別府市での「別府アルゲリッチ音楽祭」もその一つだろう。人とのつながりを大切にするようになったピアニストの姿を垣間見るようである。
 最後に、ハイドン、交響曲第94番「びっくり」第2楽章、ピアノ編曲版を取り上げた構成は心憎い。グリーグによるモーツァルト、ピアノソナタの2台版を取り上げた後、日本でもおなじみのソナチネ・アルバムにある編曲版を出したことは意義深い。グリーグが19世紀ロマン主義の中でモーツァルトの2台版を作ったことをもとに、ハイドンにもこのような編曲があったことを公にしたことは、奥田氏の学識が光った。ソナチネ・アルバムには、ベートーヴェン、交響曲第1番、第2楽章のピアノ編曲版もある。これも取り上げてもらえると面白いだろう。
 奥田氏が今後、「音楽の泉」で面白い企画を取り上げ、多くの人々の耳に届くものを作り上げることを切望する。

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